小説

死に近いものほど美しいと知り君と桜を見比べている

死にそうな顔って、見たことある? 散り始めた桜が見える川辺に腰掛ける彼女は徐にそう切り出した。 すごくつらそうな、しんどそうな顔のことだろ?それなら見たことある、みんなそんな顔をしているから。 と僕が言うと小さく、ううん、とだけ応えたあとゆっ…

1/3の純情なバンジョー

朝。一家揃って朝食を食べるのが我が家の決まりとなっている。妻が食事を作っているうちに僕はお湯を沸かしながらテレビを付けると軽快なトンカツとともにニュース番組が始まる。子どもたちもいるので一応はニュース番組にしているが、まあ正直偏ったニュー…

夏のかくれんぼ

夏の、夕方の、かくれんぼ。日の落ち始めた公園の中で、彼は隠れ場所を探している。かくれんぼを2人でやるケースがどの程度あるのかは知らないが、不登校で友達の少ない僕にはよくあることだった。 「もういいかい」 と鬼である僕が問えば 「まーだだよ」 と…

七夕という概念

病院のロビーに、小さな笹があった。 そこには思い思いの願い事が書かれた短冊がぶら下がっていて、隣には誰でも書けるように、白紙の短冊と、明らかに事務室から持ってきたであろうボールペンが半ば無造作に置かれている。 考えてみれば、紙や木の皮を細長…

センターマイクのない此処で

「いい加減にしろ」 「「どうもありがとうございました~」」 まばらな拍手を背に舞台上手へはける。俺たちの出番はこれで終わり。これは今日明日の出番ではなく今後ずっとを見据えた上での「終わり」である。理由は簡単、鳴かず飛ばずの芸人を応援する親な…

肝心なところで文字化けする男の話

文字化けとは、ある文字コードで書かれた文章を別の文字コードで読み込むことで文章が解読不能になる現象である。パソコンを使っていれば一度は見たことがあるだろう「繝代た繧ウ繝ウ」のような文字列。これを、日常で使ってしまう男がいる。 使ってしまうとい…

考えない人間はただの葦だ

選挙権の引き下げ。若年層の意見を反映させようという狙いの下、18歳である僕たちにも選挙権が与えられた。正確に言えば、そうなったらしい、ということしか僕は知らない。 周りは昨日見たドラマの話とかやっていない課題の話で持ちきりであるこの教室の全員…