夏のかくれんぼ

夏の、夕方の、かくれんぼ。日の落ち始めた公園の中で、彼は隠れ場所を探している。かくれんぼを2人でやるケースがどの程度あるのかは知らないが、不登校で友達の少ない僕にはよくあることだった。

「もういいかい」

と鬼である僕が問えば

「まーだだよ」

と返事がある。それはさながら生物が生物を捕食しなければならないように、形あるものの全てがやがて崩れるように、覆ることのない、決まりきった約束のようであった。

このやり取りを3回繰り返した後、何気なく

「Hold me tight?」

と問いかけてみる。その行為に特に意味はなく、ただ、決まりきったことに抗いたい、それだけの好奇心だったし、そもそも彼の耳には「もういいかい」と聞こえるだろう。

――不意に、後ろからきつく、抱きしめられる。

「もういいよ」

聞き覚えのある声が囁いた。

「もう、無理しなくていいんだよ」

わけもなく潤む視界のせいで僕はその人を見つけることができなかった。蜩の鳴く公園で、確かな温もりだけが見つかった夏の日であった。