50首連作 6月を迎えるにあたり

6月を迎えるにあたり   笠原楓奏(ふーか)

 

走り梅雨何に追われて街を染む

 

ここはどこ?わたしはだあれ?このくにはまだ人たちが愛しあうくに?

祝日は無いし梅雨だし水無月のことはわたしが愛すしかない

眠り方忘れたままに夜を更かしここが夜だと教わっている

千円分健康になる 履いてなかったデニムから千円が出て

四季にない時季に生まれたばっかりに暦に帰る場所の無いひと

君のためずっと明るく待つだけの白夜の街になりたい未明

春なんてなかったように夏めいて半袖だけが並ぶユニクロ

花は散りガラスは割れるのにひとはしぶといね 死なぬために必死

三日目の雨に降られて紫陽花の陽の部分が所在なく咲く

乗り換えをちょっとミスっただけですが取り戻せない人生がある

 

梅雨はじめごった返した停留所

 

バス停にいつも通りの人がいていつも通りと名付けた街路

衣替えした学生は同じ学校へ同じ格好で歩む

オベントをアタタメマスカと尋ねおる東南アジア人の店員

道なりと言われて進む道なりに五年かかると知らないままで

持ち運びに便利な不穏どこだって苦しくなれるスマート不穏

雨雲が色を失くした国道に赤い自販機だけが明るい

立ち入ったペットショップのガラス越し手頃に買えるファスト生命

とりあえず買って帰った齧歯類きみを齧歯類と名付けよう

ニンゲンと呼んでねきみの世話を焼く手柄は全人類のものです

爪痕を残したいだけこの星にあるいは君の海馬の隅に

 

青梅雨や後ろめたさを隠しゆく

 

早起きをすればその分苦しいと気付いた日から親しげな宵

ねえ鏡、後ろめたさが人間の形をしたらこうなるのかな

幸せと呼んでくださいわたしより不幸な人に疎まれるから

この曲はこのライブのソロが良いと人の正義は少し重たい

あれほどに待ち望まれた桜さえもう用済みになって水無月

危険外来種の花を踏みにじりどうしてこれがつらいのだろう

この町に未だ留まる前線にわたしたち似てるねなんて言う

肝心なことの言えないファミレスのエビのドリアを冷ましてる君

会計を済ませたあとの生温い風は悲しいほど夏の風

去年から出しっぱなしの扇風機に今年も首を横に振られる


梅雨晴間夢を描いたばっかりに

 

もし明日世界が滅亡しなくても君のやりたいことを、教えて

一年で一番昼が長い日は二十五度寝も許されていい

経年による劣化だとメルカリで売られるわたしにつける注釈

夢のない国だ空中庭園ラピュタみたいであるべきだった

バスケなら反則でしょうわたしには軸足になるものがないので

そういえば逆子だったしいうなればナチュラルボーン天邪鬼です

辛の字は棒を一本足せばいい(※棒は一本五万円です)

さあここでボーナスチャンス!人生を諦めるなら今ですよ、ほら

さーて、来週のサザエさんはとか言って誰もがみんな生きる気でいる

ガガーリン、君が宇宙へ行くまではそこにうさぎが住んでいたんだ

 

梅雨明けを祝う人らが殺す梅雨

 

二十年死に損なえば人に成りほとんど妖怪だろこんなもの

紫陽花の色のインクで満たされた万年筆は満たされている

余ってるなら、わけてほしい ひとひらのわたしの歌は潰えて、四葩

「割れ物につき、注意」の札を貼りみんなわたしを遠ざけてゆく

メシアってわたしのことを呼ぶ人に二本しかない手でする土下座

バファリンを砕いてほしい痛みとは抱え続けてゆくものならば

好意とか恋の類いで始まった行為を故意に終わらせる指

充電の切れかけている携帯で最後に送る文字がそれかよ

無駄だってわかってるのに携えた花束はどこまでも花束

目に余るほどの緑にしたためるDear春風また来て敬具

 

2019.6.6 笠原楓奏(ふーか)