第1回ニッケルハルパ歌会ありがとうございました!

 こんにちは、ふーかです。この度は第1回ニッケルハルパ歌会にご参加いただきまして誠にありがとうございました。ニッケルハルパというほとんどの人にとって未知である楽器を詠み込み必須で短歌を作るというのはなかなかに難易度の高いことだと思いますが、それでも多くの方にご参加いただけてとても嬉しく思います。

 普段から短歌を読んだり詠んだりしている人、音楽をやっているフォロワーさん、また全然別のジャンルの方まで、幅広く詠んでいただけたことが何より嬉しく、ジャンルの垣根に立っている意味を実感しました。

さて、今回は計24首の歌がエントリーされました。
ニッケルハルパについて調べ、その特徴から詠まれたもの、あるいはその耳慣れなさから詠まれたもの、大きく分けるとそのふたつのスタイルがあったように感じています。
せっかくですので、簡単に評を。
掲載は投稿順となります。

 

1 ぎこちなくニッケルハルパとつぶやけばすべての声は音符となれり(宗谷燃さん)

 耳慣れなさから着想を得て詠まれたお歌ですね。全体に「ぎ、パ、ぶ、ば、べ、ぷ」と濁音や半濁音が散りばめられているあたりが、初句の「ぎこちなく」をより確かなものにしていると思いました。主体がおおよそ初めて声にするであろう「ニッケルハルパ」を、自信がないからでしょうか、「つぶや」いてみると、その声も含めてすべての声が音符となるように感じるという発見は、馴染みの無い楽器だからこそ生まれうるものなのかもしれません。「なった」ではなく「なれり」と古語にした意図はわかりませんが、私は「った」の強い子音が来るよりこちらの方が2億倍好きです。

2 新郎と新婦白夜の階段を降りたら高らかニッケルハルパ(ヒプ寿司Mikeさん)

 スウェーデンの民俗楽器ということで白夜の単語を持って来られたのかなと思います。向こうの結婚式がどのようなものかはわかりませんが、白夜の階段というフレーズはおしゃれ係数がめちゃ高いですね。降りたところで高らかにニッケルハルパの音が奏でられるのでしょう。実際、結婚式のために作られた伝統曲もたくさんあり、ニッケルハルパが使われることもあるようです。「たらたからか」の部分がリズミカルなのも歌意と合っています。「降り(る)」という単語と「高らか」という単語のイメージがやや相反する部分があるような気もします。

3 May pole will shine 今宵ハルパが追いかける涙の円弧回るダカーポ(同上)

 残りの文字数からMay pole will shineを5音(英語的に発音したら4音節な気はしますが自信ないです)として処理していることがわかります。メイポールを立てるのは向こうでは恒例行事となっているようです。次に続く「今宵」と併せて、夜のメイポールはやがて昼に輝くこととなる、という意味で捉えました。「追いかける」以降は連体形か終止形かで読み方が変わるので何句切れとするかが問題になります。私は「追いかける」は終止形、「回る」は連体形で読みました。意味と言うよりリズムで捉えた方が良いのかな、歌詞っぽいですよね。

4 タンジェント押してコサイン振幅しf字孔から震えて音色(同上)

 ニッケルハルパの鍵盤に取り付けてある木片をタンジェントと呼ぶことまで調べてくださったと思われる作品。実際のところ三角関数は関係ないんですが想起しますよね。また、弦の振動は物理学の範疇であるため、もしかしたら計算式にサインコサインタンジェントが出てくるかも知れません。一応、実際に押す箇所はタンジェントではなく鍵盤である点については補足させてください。

5 天鵞絨の音色がどこか哀愁を耳に懐かしニッケルハルパ(翔竜 翼飛さん)

 「天鵞絨(ビロード)の音色」とはまたおしゃれな比喩が出てきました。ニッケルハルパの音色は聞いたことがなかったのに懐かしいと思う方が多く、その帯びている「哀愁」と「懐かし(さ)」を「天鵞絨」というちょっと古めかしい言葉に託した点が見事。

6 談話室ニッケルハルパの鳴るに似た静かなもらい泣きをする人(Toijimaさん)

 談話室というとイギリスとかヨーロッパのイメージがありますね、なんとなく。日本の光景だとすると客間なのか、喫茶店的なところなのか、もらい泣きをする可能性はどちらにもあるのですが、どちらかというと前者かな~、「静かなもらい泣き」ですし。もちろん西洋の光景かもしれません。その方がしっくりくるかな。ニッケルハルパの鳴る、鳴く、泣く、という連想もできていますね。楽器の音を静かなもらい泣きに似ていると捉える(歌中では逆の向きでの比喩ですが)感性が素敵です。なんだろな、悲しい涙じゃないような気がします。

7 ステップで民族衣装揺めきてうねるリズムのニッケルハルパYumie Kushitaniさん)

 ニッケルハルパフォークダンスの伴奏楽器であることに着目した歌。現地の光景がきれいに描写されているように感じました。民族衣装の視覚的情報に、ニッケルハルパの聴覚的情報が加わり、その賑やかさや楽しさといったことも伝わってきます。ニッケルハルパの故郷の曲は拍が伸び縮みする、「うねるリズム」の曲が多かったりします。個人的に「で」は便利な半面使い所の難しい助詞だと思っているので(この場合は原因理由の意味が強くなる)、私なら「ステップに」にしちゃうかな。

8 共鳴し彼の地に想いを馳せているあなたの弾くニッケルハルパ(同上)

 ニッケルハルパに張られている共鳴弦は演奏した音に呼応して共振する仕組みになっていますが、それを「ここ」と「彼の地」との共鳴と喩えたところがお上手だと感じました。「あなた」が主体と同じところにいて、「あなた」と「彼の地」に関係性があるとも読めますし、「あなた」と主体は別のところにいて自分の演奏によって「あなた」がいる「彼の地」に想いを馳せているとも読めますね。私は前者で読みました。ニッケルハルパは今は目の前…おそらくスウェーデンではないどこかで弾かれているけれど、彼の地(スウェーデン)へ想いを馳せるように共鳴音が鳴っているというような解釈です。

9 5時間でニッケルハルパを組み立てろ
  せかいを救う最終手段 (NARE-NO-HATE Brothersさん)

 勢いが素晴らしいですよね。注文には数ヶ月、数年待つことも少なくないこの楽器ですが、5時間で組み立てたらせかいが救われるなら頑張れそうな気もします。「最終手段」なので他にも方法はあるはずだけど、残念ながら最終手段が必要になってしまったのでしょう。5時間という具体的な数詞も手段としての虚構のリアリティのためにちゃんと機能していますし、ニッケルハルパの製作家は一般に「ビルダー」なので「組み立てる」という動詞も的確だと思います。「せかい」と開いていることによって、おそらく我々の生きている世界ではない世界線の話を想起させ、最終手段の漢字4文字を際立たせています。

 10 笑うときニッケルハルパに似ているねきみがいうならそうなのだろう(とうてつさん)

 下の句から、上の句が「きみ」のセリフだと言うことがわかります。どんな表現だよ、とツッコみたくなりますし、主体もおそらくニッケルハルパを知らないようなので「きみ」のセンスはなかなか独特であるようです。しかしそれを否定せず、「きみがいうならそうなのだろう」と肯定できる主体のやさしさや、「きみ」への好意が感じられてどこかほのぼのする、そんな歌だと思いました。漢字が少ないのもほのぼの感を漂わせてくれています。

11 模写すれど省略されし鍵盤や弦の哀しみニッケルハルパ(NARE-NO-HATE Brothersさん)

 パーツがね、多いんですよね。だからどうしてもデフォルメの過程で鍵盤や共鳴弦が割愛されてしまう…というところにある「哀しみ」を詠った作品です。「模写すれば省略された鍵盤や」でも意味通り定型になりますが、文語調の方が哀しみはより強いものになる気がします。「鍵盤や弦の哀しみ」であるのでこれは擬人法ということになりますが、それがどこまで機能しているかは少し気になるところです。最後のニッケルハルパがやや唐突かな〜という気もしますが詠み込み必須を指定したのは私です。

12 柔らかな空はここから作られてニッケルハルパの音のする場所(八重森さくらさん)

 柔らかな空はニッケルハルパの音のする場所から作られているという素敵な比喩。ここ=ニッケルハルパの音のする場所、と読むのが素直だと思うのですが、最初に出てくる空という広い視点からニッケルハルパを弾いている人物に光景がフォーカスしていきます。先に作っておいた空間に音が広がるような構造になっていて先に代名詞だけ登場させたのも成功しているのではないでしょうか。空の中でも「柔らかな空」は「ここ」から作られるんでしょうね~。

13 知らぬ間に散ってる桜けれどもうニッケルハルパを知ってる春だ(若枝あらうさん)

 毎年同じように春はやってきて桜は咲いて散っていくわけですが、去年までと違うのは「ニッケルハルパを知ってる」ということ。それがどれほどのことかはわからないけれど、どこか前向きな、一歩成長した感覚を持ちました。異国の民俗楽器を知るだけの視野や人脈が広がったということでしょうか。ニッケルハルパという単語の使い方としてはかなり上手いと思います。すなわちここに来る単語はニッケルハルパじゃなくても歌は成り立ち得るとは思いますが、すぐに代替案は思い浮かばないのでニッケルハルパが正解なんじゃないですかね。あと私は二句切れが好きです。しいて添削をするなら四句で字余りしつつ結句で「い抜き」をしているのはひっかかるっちゃひっかかるので体言止めを辞さないなら「知っている春」にするかなあと思いました。

14 重たくて連れていけない相方の代わりに来い来いニッケルハルパ(奏鳴 綾人さん)

 代わりにニッケルハルパを迎えたがるということは「相方」とは楽器のことでしょうか。それとも目を惹く何か?少なくとも人間ではないでしょう。仮に鍵盤繋がりでピアノだとすると、真の相方はピアノだけどそれを「連れてい(く)」ことは難しいので代わりにニッケルハルパに「来い来い」という。ピアノならアコーディオンなどほかの選択肢もある中で、ニッケルハルパを選ぶ主体は独特な感性を持っているのかも知れません。ただ、迎えたら相棒が増えるだけで代わりにはならないような気が、します。

15 あの人の生まれた街に連れてって参考図書とニッケルハルパ(めーぷるしろっくさん)

 参考図書とニッケルハルパを並べるのが乙ですね。通して読むわけではなく、何かの参考のため一部を参照する本、そしてニッケルハルパが「あの人の生まれた街」を想起させるならスウェーデンについて調べているのでしょうか。異国について調べているとその国に連れて行ってほしくなることがある経験をした方も多いのでは。その心情と光景がきれいに描かれています。

16 耳慣れぬ響きにしばし戸惑ってニッケルハルパが浮かぶ白地図(宗谷燃さん)

 初めてニッケルハルパを見た人に説明すると「ニッ……え?」と聞き返されることは多いです。「ニッケルハルパ…?」と戸惑う主体の表情が見えてくるような気がします。そこから白地図に繋げたのが面白いですね、国の名前かと思ったのかしら。ニッケルハルパ共和国。うーん、ありそう。あるいはスウェーデンの楽器なんですと説明されてもスウェーデンがどこなのか曖昧で、白地図を広げることとなったのかもしれません。

17 まどろみのウェルニッケ野を駆けてゆくニッケルハルパと君の鼻声(あぼがどさん)

 ウェルニッケ野は言語中枢とも呼ばれ他人の言語を理解するときに使われる脳の領域のことで個人的に好きな単語です。まどろんでいる主体のぼんやりとしたウェルニッケ野に「ニッケルハルパ」という単語は馬耳東風だったのでしょう。しかも鼻声で言うからよりいっそう何言ってるのかわからない。その感じを「駆けてゆく」と形容したのは的確かつ素晴らしいと思いました。31文字の中に13文字のカタカナがあってちゃんと形になっているというのはお見事です。

18 いつぞやの ニッケルハルパ
  不意に聴き はるばる来たり
  在りし日の音  (こんばすちゃんさん)

 この歌に関しては客観的に読むことが不可能なので超主観で読みますが、先日ニッケルハルパの動画を投稿して、それをRTしてくださったアカウントに見覚えがあり、はなしかけるとやはり学生時代の先輩であったというミラクルが起きました。そのできごとを詠んでくださったのだと思います。不意にRTされてきたニッケルハルパを聴いたところ、在りし日…私が学生の頃でしょう、の音がよみがえってきた。そう解釈しました。「はるばる来た」のはニッケルハルパとも「在りし日の音」とも読めますね。

19 スキップすニッケルハルパ専攻の楽器ケースは異国に近い(遙禽すみさん)

 確実に日本にはニッケルハルパ専攻の音大生はいないでしょうから、虚構ではあるものの、ニッケルハルパ専攻と文字にされると、あるような気がしてくるから不思議です。ニッケルハルパにも当然ケースは存在するわけですが、そこに発想を持ってきたのは唯一無二でした。ほとんどの人は何が入っているかわからないそのケースを異国に近いと表現するのは未知なる物のニュアンスが出ていて良いです。初句でスキップす、と句切っている意図とスキップを持ってきた理由を掴みかねていますが全体として楽しそうです。

20 雪が溶け芽吹く草木の間をゆけばニッケルハルパの音に陽絡む(おふとんけいとさん

 ニッケルハルパと春を詠んだ作品。「音に陽絡む」は「おとにひからむ」かとは思いますが「ねにひ からむ」のリズムで読んだ方が私は好きなので勝手にそう読んでいます。春の陽の下、屋外で弾くニッケルハルパは暖かい印象を与えてくれます。全体として文字通りに読めば良さそうなのですが、名詞と動詞と漢字が多いのでちょっと煩雑な印象は持ってしまいます。それにより芽吹く草木が茨のように込み入っているイメージになっているかな~と。

21 背でキーはざわめき弓を執れば歌う共鳴弦の君と暮らす(おふとんけいとさん

 ニッケルハルパを背負って運んでいるときのカタカタという音を「ざわめき」と表現したことが素敵だと思います。57676で計31ですが韻律は不安定に感じます。運んでいるし、暮らしているので、楽器を持っている人のことを想像して詠んだのでしょう。つまり「君」はニッケルハルパのことであるわけですが、あのサイズの楽器は一緒に暮らしている感があるので擬人法でなく、本当にそう感じているのではないのかと思うわけです。(大きい楽器を弾いている私より)

22 鍵盤の嶺を軽やかステップし
  ニッケルハルパ響く山びこ(NARE-NO-HATE Brothersさん)

 鍵盤の嶺という表現が良いですね、確かに嶺に見えてきました。そこをステップするわけですから、指を足に見立てているのでしょう。軽やかに演奏している光景を、上手く捉えているなと感じました。「嶺」から「山びこ」という言葉が連想されたと思いますが、私は「ニッケルハルパ(が、の)響く山びこ」と連体形で読むよりは、「ニッケルハルパ響く/ 山びこ」と一度カットを切って、ニッケルハルパを響く時間を作った後、山びこ≒呼応≒共鳴の音が鳴るように読むのが好みです。

23 新緑の光とそよぐ風連れて
  ニッケルハルパ今日は夏至(あぐさん)

 「新緑」や「そよぐ風」から漂う5月感と、「夏至祭」(6月)は競合しているような気もしましたが、ニッケルハルパが5月を連れてきたまま夏至祭を迎えたと解釈すれば問題無いことに気が付きました。冬の長い北欧の人にとってはもう夏至が楽しみになってくる頃でしょう。ニッケルハルパがある意味最も輝かしい日に向かって行く爽やかさはきれいに描けていると感じます。超個人的な好みの話にはなりますが、「連れて」きた感をもっと活かしてあげるには「今日」よりも「明日」の方が良かったかな~~。単なる好みです。

24 ダルブッカ、ニッケルハルパにウードの音 イヤホンで飛ぶ遥かな異国(双海さん)

 私も経験がありますが、民俗音楽好きな人のiPodスマホで起こりがちな状況ですね!スマホ一つ、イヤホン一つで異国へ飛べる時代は楽しいなと思います。ダルブッカ(ダラブッカ)、ニッケルハルパ、ウードというチョイスもなかなか良いのではないでしょうか。打楽器、擦弦楽器撥弦楽器というように要素が被らないようになっています。とりあえずその3つがイヤホンから流れる人とは仲良くなりたい次第です。

ということで詠み込んであるものは計21首となりました。
歌に優劣をつけるのは複数人で行わないと完全に好みの話になってしまうので、あまり結果にはこだわらずにこれからも気軽に短歌を詠んでいただけたら嬉しいのですが、手応えも欲しいところかと思いますので、入選作品と特選作品を発表します。

入選(投稿順)

1 ぎこちなくニッケルハルパとつぶやけばすべての声は音符となれり(宗谷燃さん)

9 5時間でニッケルハルパを組み立てろ
  せかいを救う最終手段 (NARE-NO-HATE Brothersさん)

13 知らぬ間に散ってる桜けれどもうニッケルハルパを知ってる春だ(若枝あらうさん)

17 まどろみのウェルニッケ野を駆けてゆくニッケルハルパと君の鼻声(あぼがどさん)

の中から、特選は
まどろみのウェルニッケ野を駆けてゆくニッケルハルパと君の鼻声

とします。あぼがどさん、おめでとうございます!CDお送りしますね!

それでは、次回があるかはわかりませんが、次の企画にもご参加いただければ嬉しいです!

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私が詠んだものもおまけに…

TLになんてことない日常となんてことあるニッケルハルパ
ピロティを吹き抜けるとき風速が含むニッケルハルパの音色(笠原楓奏)

それでは。