櫛谷結実枝1stアルバム「光」 レビュー

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すんごい良いトレーラー、見ました?

これで引き込まれて購入したアルバムについて、言葉屋さんとして感想をつらつら書いていきたいと思います。ちなみにライナーノーツはQRコードで読み取ると読める仕様なのですが、先入観無しで書きたいのでまだそれは読まずにいます。

1. 冬の朝

 フィンランドの伝統楽器カンテレの音が降り注ぐように鳴るところからこの曲は始まり、その後に主役たるフィドル(ヴァイオリン)が登場します。
 やさしく問いかけるようなメロディが対話のようにも聞こえます。でもその問いかけの隙間隙間には音が無いんですね、つまりメロディは私たち聞き手への問いかけであり、対話相手は私たちなのかもしれません。この曲からこのアルバムが始まることは我々から言葉を、感情を引っ張り出そうとしているのかも。案の定、唆されるように私もコメントをしているわけですが。

2. Beröm till naturen(自然賛美)

 スウェーデン語のタイトルがつけられたこの曲。ゆったりとした3拍子であるこの曲から私は朝靄がかった湖のある森のような情景を感じました。どこまでも優美で伸びやかなメロディは賛美の曲であることを容易に想起させます。クラシックギターの伴奏も穏やかで素敵です。とにかく美しいを極めたような一曲です。

3. 雲海

 ピアノが初登場となるこの曲はやや和的な要素がどこか漂っていて、親しみやすい曲なのではないでしょうか。ピアノは叙情的で心に語りかけてくるような演奏をしています。泣けるようなマイナー調のメロディでも終わりは穏やかなメジャーで、そういうところも涙腺に働きかけてきます、最初と最後しかフィドルがメロディを弾かないという構成もズルいんだよなあ!主旋律をピアノにバトンパスした後のフィドルが低めの音域で奏でている対旋律が個人的にとても好みでした。

4. Sally

 ゆったりした導入部で今までのテイストを引き継いだ後、軽快な4拍子に切り替わります。かわいらしくもあり楽しげでもあり、でもどこか哀愁もある。仮にこの曲が女の子だったら私は惹かれてしまうだろうなという曲でした。結部ではスローなテンポが戻ってきて、テーマを私たちに繰り返し問いかけます。

5.Semla

 セムラ、というタイトルと同じスウェーデンの有名なお菓子かつ地名がありますね!加えてこの曲では初めてアコーディオンが登場します。短いフレーズを繰り返すという北欧音楽のテイストが含まれた、キャッチーで覚えやすくありながらも盛り上がりや展開をちゃんと作っているので飽きずに聴ける印象でした。私が真っ先に歌えるようになったのはこの曲です。Bメロ?の入りが好きです。

6. 旅する灯

 臨時記号が出てきたり部分的な転調をしていたりクラシック音楽の要素が強くでているかなと感じる曲でした。でも全然堅苦しくはなく、歩幅を合わせて歩いてくれる友達のような3拍子の曲です。メロディだけでなく金属弦ギターの伴奏も寄り添うような演奏で、苦楽を共にしながら3人で歩いている感覚になる曲です。

7. 雨雲のエチュード

 エチュードとは練習曲のことですが、まさにそれらしい分散和音からこの曲は始まります。この曲だけはクラシックの曲と言われれば信じるな~、とか思ってるとフルートとピアノが入ってきて練習曲が「雨雲のエチュード」へと変わります。このアンサンブルが素晴らしくて、エチュードらしく冒頭のテーマを変形させたりしながら雨雲の雰囲気も残しつつ、おしゃれ和音で終わります。とりわけ聴き応えがあるのではないかと。

8. 暖炉の前で

 タイトルを知らなくても、四季のうちどれかと問われれば冬と答えると思います。この曲も北欧音楽の要素を盛り込みながら櫛谷さんのオリジナル曲へと昇華させているように思いました。暖かさと冷たさが同居しているような、言葉にするのに一番苦戦した曲でもあります。素敵の一言で片付けてしまえばそれで済むのかもしれませんが、それをしたくないとなると、夕暮れ時、転んだ少年に手を差し伸べる学生の優しさみたいな暖かさかなあと感じます。

9. 光

 表題曲でもあり、最大の泣き所でもあるこの曲。いやこれはもう光なんですよ、絶望の淵に追いやられた人すら照らす光。白く、芯のある光。決して闇雲に光るだけではなく、照らすべき人だけを照らす、救いの光。盛り上がりを見せた後の泣き落としはもうね、聴いて実感してくださいという感じです。おそらく一番伝えたいことがこもっているであろう曲だけに、無粋なことは書けない…というか書く必要を感じない名曲です。

ということで全曲に簡単な感想を述べてみました。
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